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2008-05-08

蒲田



蒲田というのは憎めない街で、まぁ住めば都というけれど、ぼくは十年以上ここに住んで、大変居心地が良い。

蒲田をひとことで言うならば、「ガシャガシャした街」である。駅前には古い雑居ビルが立ち並び、路地裏には小さな飲み屋が軒を連ねている。飲食店の数は東京では新宿に次いで第二位だそうで、さらに飲み屋だけカウントすると、東京で第一位という噂もある。キャバクラの類が多く、以前は夜九時頃になると駅前にキャバ嬢がずらっと並び、客引きをしていた。東京都の条例改正以後はさすがにその光景は見られなくなったが、それでも裏通りは客引きが全盛である。

韓国人や中国人の経営する飲食店やマッサージ店も多い。そういう場所で働く人たちを相手とした韓国料理や中国料理の店も多く、そういう所は大体裏通りや雑居ビルの上の方の目立たない場所にあるのだが、客は日本人の方がむしろ少ない位で、値段も安く、しかも大変うまい。名古屋でも色々探したが、こういう店はほとんど見当たらなかった。日本人の経営する店も色々特色がある所が多く、カレーにしてもラーメンにしても、とんかつにしても、チェーン店ではなく、個人経営している店に名店が多い。

まぁここまで書いたようなことは東京のどこにもありそうなことで、それほど珍しがる事でもないかも知れないが、蒲田の特徴はさらに、「目立った大きな店がない」という所にある。

例えば家電量販店。どこの駅にもビッグカメラとかさくらやとか、ちょっとした駅の駅前には必ずあるものだが、蒲田にはない。駅前にはキシフォートという蒲田ローカルの店があるだけで、ラオックスの小さ目の店が、アーケードをちょっと行った所にあるだけである。

映画館も、やはりアーケードをずっと行った先に小さなものがあるのみ。蒲田行進曲で何となく映画の街というイメージが広まったが、全くそんなことはない。洒落たファッションビルもない。以前丸井があったが、これも撤退した。ファミリーレストランは、以前は駅の東西にジョナサンが一軒ずつあったきりだったのが、最近やっと、デニーズが出来た。

そんな中、唯一大きな、と表現できるのは駅ビルで、東急蒲田駅の上には東急プラザがある。そしてJR蒲田駅の上には、以前はサンカマタとパリオという、超ローカルな駅ビルがあったのが、今回、グランデュオというものに建て替えになった。


蒲田グランデュオ

サンカマタとパリオに入っていた店をすべて追い出して、蒲田駅の改修も含めた大工事だったので、どれだけのものが出来るのかと思ったが、実際見てみると何とも中途半端で、きれいにはなっているが、イマイチ垢抜けない、小さな店がガシャガシャとあるという印象は、以前の駅ビルとあまり変わらない。まぁそれはそうで、前に入っていた店をそうそう無碍には出来ないだろうから、仕方ないのだろう。その割にはJRの改札の横にあった、めん亭という立ち食い蕎麦屋の名店をなくして、結局JR蒲田駅には立ち食い蕎麦屋がなくなったので、やることがいちいち中途半端なのである。

蒲田は上ると隣の駅が大森、下ると川崎である。大森は西側に山王という超高級住宅地を控え、また東側も比較的落ち着いた住宅街が広がっている。平和島競艇場があるので、多少柄の悪いおじさんが行き来はするが、全体としてハイソで、落ち着いた雰囲気がある。川崎は京浜工業地帯の中核、恐らく日本中から集まってきたであろう大工場の労働者を中心とした街で、ガシャガシャしていると言えば蒲田の比ではないのだが、それはそれで徹底していて、駅の東側には堀の内というソープ街があるし、また最近駅の西側に、東芝の工場が移転した跡地にラゾーナ川崎という巨大ショッピングモールが出来た。これは何もなかった所にいきなり出来たモールだから、何のしがらみもなかっただろう、入っている店もかなり厳選されていて、蒲田グランデュオとは桁が二つも三つも違う感じがする。これから人をどんどん吸い寄せていくのだろうなと思わせる。

蒲田は駅の南側には町工場の一帯が広がっていて、ここは世界に誇る技術を持っており、iPodのあのピカピカのボディーを磨くのは蒲田の町工場だそうだが、町工場だからそこで働く職人や作業員は、近くに家族と住んでいる例も多いだろう。北側には東急池上線、目黒線沿いに落ち着いた住宅地が広がっていて、ちょっと先には田園調布もあり、どちらかと言えば高所得者が住んでいる。このように蒲田は駅の南北で住んでいる人の層が大きく異なっており、大森や川崎のように、どちらかにシフトするというわけにも行かないのだろう。それがこの街のなんとも中途半端な感じの原因なのだと思う。

しかし近隣の住民は恐らく、そんな中途半端な蒲田が好きなのだ。休日ともなれば街中に人が出て、ローカルな店の数々を眺め、楽しんでいく。夜は夜で、地元のおやじさん達で、飲み屋は賑わう。外国の人たちも、それなりに居場所を見つけている。特別素晴らしい物はないが、あまり足りない物もない。蒲田はそういう平和な場所なのだと思う。