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2008-07-30

ダイ・ハード4.0


※以下はダイ・ハード4.0の結末について、ちょっとだけ触れています。まあダイ・ハードの場合、結末が分かったからといって楽しみはそれほど減らないと思いますが、これからこれを見ようと思っていて、結末を知りたくないという人は、読まないようにしてくださいね!

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鉄砲は、最後の武器だ。あ、これ、忍者部隊月光という、古い古い日本のテレビ番組のセリフなのだけれど、アクション映画の王道は、これに尽きるのだと思う。

アクション映画の効用は、誰の中にもある暴力衝動を、解放してやるというところにあるだろう。しかしただ人を殺す場面を延々と見せられても、やはりそこには共感できないわけで、暴力を使うそれなりの理由があることを観客に納得させて初めて、アクション映画はその効用を実際に果たすことができる。だからまず、敵が絶対的に悪でなければならない。

ここしばらく、もしかしたらこれはダイ・ハードの第一作以来なのかもしれないが、テロリストというのは悪役として不動の地位を占めていると言えるかもしれない。今回このダイ・ハード4.0でも、もと国防総省の情報保安責任者が、屈折してテロリストとなり、国防総省時代の自分の知識をフルに活用するという設定になっている。

しかしいかに相手が悪だからといって、それだけで人を殺してしまっては、共感や感動までもっていくのは難しい。日本では昔から、相手にやられてやられて、これ以上は我慢できないというところでやり返す、というのが、アクション活劇の基本的なパターンとしてあると思う。上の忍者部隊月光もそうだったし、古くは忠臣蔵、またウルトラマン、プロレスなどなど、当てはまるものはたくさんある。まあこれは日本に限らず、どこでもそうなのかもしれないが。

ダイ・ハードの場合ももちろん同じで、 ジョン・マクレーンは常に警官としての仕事の行きがかり上、仕方なく事件にかかわり、だんだん深みにはまっていく。あくまで消極的なのだ。自分の不運をぼやきながらも果敢に前に進んでいくマクレーンの姿は、やりたくなくてもやらなければいけない、仕事というものが大きな比重を占めつつある現代の人間にとって、共感できる一つのあり方なのかもしれない。

しかしそれだけでなく、ダイ・ハードがこれまでのアクション映画とくらべて決定的に新しいのは、主人公は死なない、ということを、これまでもそれはもちろん、暗黙の了解ではだったわけだが、それを題名、ダイ・ハード=なかなか死なない、にはっきり謳っている、というところにあるのだと思う。画面の背景で、これは当然死ぬでしょ、と思うような大爆発が起き、そこからマクレーンが間一髪、命からがら逃げ出してくるシーンは、ダイ・ハードを象徴していると思うが、今回ももちろん、ツボはきっちり押さえられている。あまりに現実的離れしていて笑える、というところに、ダイ・ハードのキモがあるのだと思う。

ところで今回のダイ・ハード4.0、前作ダイ・ハード3から10年以上が経っているわけだが、その間にあの9.11があった。テロリストと戦い、絶対に死なないマクレーンの現実離れした姿をみな楽しんでいたところに、世界貿易センタービルにテロリストによって乗っ取られた民間航空機が突っ込むという、映画でも思いつけなかったようなあまりに現実離れしたことが現実に起き、多数の人が亡くなった。おそらくそのことで、アメリカ人はダイ・ハードの現実離れを笑えなくなってしまったのだ。それが人気シリーズであったはずのダイ・ハードの続編が10年以上にわたって作られなかった、一つの理由としてあったのではなかったかと想像する。

ダイ・ハード4.0の監督は、レン・ワイズマン、若干35歳。ダイ・ハード4の企画はこれまでも何度も検討されたそうだが、すべてお蔵入りになってきた。今回ワイズマンが持ち込んだ企画を、製作者でもあるブルース・ウィルスが、これだ、受け入れたのだという。ワイズマンはまずジョン・マクレーンに「父親」としての性格を持たせることにした。実の娘との葛藤、息子ほど年の離れた若者との出会い。娘と和解し、ひ弱だった若者が成長していくことが、物語の中核にすえられる。ダイ・ハードをただ荒唐無稽で笑えて痛快、というだけのものとしてではなく、きちんと人間のドラマを描くものとして位置づけなおした。

またうまいのは、今回のテロリスト、サイバーテロを仕掛けるのだが、テロの基本的な設定としては、人質は取らない。人の命を担保にするのではなく、アメリカのコンピュータネットワークを崩壊させることにより、ある場所に隠されている金融情報をまるごと横取りしようとするのだ。テロにより人の命が危険にさらされるということは、アメリカ人にとってまさに今、現実に起こっていることであり、それを安易に映画の題材にするということにはならないのだろう。サイバーテロという現代風の設定が、うまくそうした困難をも避けることになり、なかなか考えているなと思わせる。

ダイ・ハード4.0、なぜ今頃とも思ったが、ブルース・ウィルスはこの10年、シックス・センスやアルマゲドンなどホラーやアクションの映画にも出演して演技の幅を広げており、なにも落ち目になったから二匹目のどじょうを捕まえようとした、ということではなかった。世の中を見、自分を見、人と対話しながら、タイミングを計っていたのだ。そして今だ、というタイミングで果敢に踏み出し、シリーズ四作中、全米、全世界とも最高の興行収入という結果。ブルース・ウィルス、たいした人だなと思う。

評価:★★★★☆