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2012-07-25

今夜の散歩


今日は金曜日。四条大宮が週のなかで一番にぎわう日。
新しい出会いを予感して、僕は3千円をポケットにいれ、夜の散歩に家を出た。




四条大宮に飲み屋は色々あるけれど、最近はキム君のバー「Spiner's」にハマっている。
キム君は、店の中でお客さんを動かすことで、お客さん同士の関係を付けていこうとする。
キャバクラの店長が、女の子を動かしていくことで店を盛り上げるのと、センスとしては似ているとおもうけれども、それをお客さん同士でやるところが、キム君はすごいと僕はおもう。



Spiner'sへ入ると、店内は大盛況。カウンターはほぼ満席で、後ろのテーブル席にも人がいる。
カウンターの手前には、熊の男性と九十九一の男性、それに鳳蘭を30歳若くした女性がいたけれど、そこには入る場所がないから、僕はカウンターの反対の端にすわった。



店にはさらに、後から後から人が入ってくる。
カウンターで、椅子席のあいだに入り込み、立って飲む人も出はじめた。
やがてキム君の奥さんが、友達の女性を連れて入ってきて、僕の真後ろにあるテーブル席にすわった。



キム君の奥さんは、アナウンサーの井田由美を30歳くらい若くしたような、聡明な感じのする美人。
友達は、麻生久美子に似ている。
隣で盛り上がる若者たちの話に入れず、カウンターの端にぽつんとすわっていた僕は、ときどき2人をチラ見しながら、1人で酒を飲んでいた。



何回めかに2人をチラ見したその瞬間、麻生久美子の女性と目が合った。
すると麻生久美子の女性が言う。

「よかったら、こちらでいっしょに飲みませんか・・・・」



やった・・・・。



しかし一応きいてみる。

「いいんですか、お邪魔じゃないですか」

「どうぞどうぞ、そこにいるより、こちらのほうが楽しいと思いますよ・・・・」

僕はすわっていたカウンターから、2人のいるテーブル席へ移動した。



麻生久美子の女性は40歳、まだバツの付かない独身とのこと。
長崎の出身だが、京都に来て20年近くになるという。

「長崎は、ほんとにしゃれた街で、いいですよね・・・・」

長崎の話題で話を盛り上げる僕。

「長崎はどこがお好きなんですか」

「僕はグラバー邸とか、あの和洋折衷建築が大好きなんです・・・・」



会話はそれから、快調に続いていく。
キム君の奥さんは、麻生久美子の女性に僕のブログのことを話していた。

「そのブログ、見せてもらえませんか?」

僕は携帯からブログにアクセスし、女性に見せた。
女性はときどきクスリと笑いながら、僕がキム君の店について書いた記事を読む。

「ブログを読んで笑ったのは初めてです。私とちょっと、感性が似ている気がする・・・・」



これはキタ・・・・。



カウンター席が空いたので、キム君に呼ばれた僕達は、そちらへ移動することにする。
僕は麻生久美子の女性とならんですわった。
会話はそれからも、軽やかに進んでいく・・・・。



やがて九十九一の男性が、ギターを持ち出してきた。
ハーモニカやアコーディオン、さらにはバイオリンを取り出すお客さんもいる。
キム君もパーカッションを提供し、お客さん達による即興の演奏が始まった。



演奏を聞きながら、僕もムラムラと、麻生久美子の女性にいいところを見せたくなってきた。
僕は学生時代にギターを弾き、バンドも組んでいたことがある。
最近でも、スナックでカラオケを歌うのは得意とするところだ。



お客さんの演奏がひと区切りするのを待ち、僕は九十九一からギターを借りた。

「季節のない、街に~、生~ま~れ~・・・・」

弾き始めるのは、泉谷しげるの春夏秋冬。
しかし歌い始めてすぐに気が付いた。



歌詞カードがない・・・・。



2番になると、モゴモゴと口ごもる僕の演奏に、お客さんはすぐに興味を失い、ザワザワと話始める。



まずい・・・・。



春夏秋冬を早々に終えた僕は、つづいてビートルズのレットイットビー、さらにヘイ・ジュードを歌う。
レットイットビーもヘイ・ジュードも、やはり歌詞は憶えていなかったけれど、サビの部分だけを大声で歌えばごまかせる。

「ナ~ナ~ナ~、ナ・ナ・ナ、ナ~・・・・」

最後はみなで合唱になり、なんとか格好がついて、演奏を終えた。



席にもどった僕に、麻生久美子の女性がきく。

「どうして歌詞をちゃんと憶えてないのに、歌おうと思ったんですか」

僕は正直に答える。

「ムラムラと、麻生さんにいいところを見せたくなって・・・・」

麻生久美子の女性は言う。

「そうやって、正直に答えるのがいいですね・・・・」



その後も、キム君の店はお客さんが引かない。
横山やすしの男性、さらに石田純一似の男性もやってきて、カウンターでの話がつづく・・・・。



僕はキム君からメモ用紙とペンを借り、自分のメールアドレスを書いて麻生久美子の女性に渡した。

「もしまた今度、Spiner'sへ来る機会があれば、連絡してもらえませんか?」

麻生久美子の女性はニコリと笑ってメモを受け取り、すぐにメールを送ってくれた。



ヤッタ・・・・。



キム君の店からお客さんがようやく引けたのは、夜も白々と明けた、午前6時。
僕はタクシーで帰る麻生久美子の女性を送って、店の前まで出ていった。



ふと、僕はきいてみた。

「麻生さん、彼氏はいるんですか?」

麻生久美子の女性は答えた。

「はい、います・・・・」



・・・・・・・・。



麻生久美子の女性が乗り込み、走り去っていくタクシーを、僕は朦朧とした頭で見送った。



家路を歩く僕に向かって、カラスが「カー、カー」と、バカにしたような声で鳴いた。